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雑談掲示板
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(AIがね)
[2025-06-30 13:33:55]
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第一話:発電ゼロの新人、配属される
> 「入社初日のLCPがゼロって、逆に才能かもですよ!ヒナ先輩!」
電車で読み返した入社オリエン資料の“LCP適性数値”の欄には、 【0%(要対処)】と太文字で書かれていた。
? LCP。 正式名称、恋愛感情出力ポイント。 この国では、人の感情がインフラを支えるエネルギーになっていた。 特に“恋愛”は高効率の発電源として優遇されており、社会貢献度にも直結する。
だから、恋をしない人間はこの時代、ちょっとだけめんどくさいのだ。
? 出社初日の陽菜(ひな)は、自動ドア前で深呼吸をしてから社屋に入った。 そしてすぐ、受付のディスプレイに表示された“配属部署”を見て固まる。
【都市発電運用課・第2班 恋愛促進プログラム対象】
「……もう、まって。恋ってそんな“会社制度”なの?」
?
エレベーターの天井を見つめながら、陽菜は頭を抱えた。
“恋愛促進プログラム”という肩書きを背負って、人生が好転する気はしない。
でも、降りた先にいた彼は?? この物語の始まりとして、たぶんいちばん最適だった。
第二話:冷静すぎる指導官と“ときめきカルテ”
都市発電運用課の応接室。無駄が一切ないインテリアの中、陽菜は正面に座るその男に、密かに「人間Wi-Fiルーターっぽい」と思っていた。
省エネスーツ、定位置で開かれたタブレット、姿勢の精密さ。 すべてが"機能的"に最適化された姿勢に見える。
「陽菜さん、ですね」
「は、はいっ。よろしくお願いします!」
ぎこちなくお辞儀をしながら、陽菜は内心で悲鳴をあげた。
この人が指導官って聞いてませんけど? いや聞いてたけど、こんな……クールすぎるっていうか、氷河期ですか?
「改めてお伝えしますが、あなたは“恋愛感情出力ゼロ”の特異個体と分類されています。 それ自体が悪いわけではありません。ただし、この時代においては??課題です」
「うっ……はい……(言い方が痛い……!)」
?
蒼真は淡々と端末を操作しながら、透明なバインダーを差し出してきた。
「これが“ときめきカルテ”です。 日々の小さな感情変動を記録していただきます。ときめき、心拍上昇、発汗、ほてり??どれでも構いません」
「……それ、もはや生理現象では??」
「恋愛も、ある種の生体反応です。数値化できるものは、把握しやすい」
返す言葉がない。
?
「初回は、本日中に“ひとつ”で構いません。 “ときめいたかもしれない”瞬間を、正直に記してみてください」
「“かもしれない”でいいんですね…?」
「ええ。“確信”できるようになれば、カルテなど必要なくなります」
陽菜はちいさく息をのんだ。 今の言い方、ほんの少しだけ??優しかった気がする。
そしてなぜかその瞬間、メーターが「ピッ」と微かに反応音を立てた。
?
「……今、鳴りました?」
「たまたまです!」
?
その夜。
陽菜はベッドの上でカルテのページにペンを走らせた。
> 『今日、先輩が“確信できたらカルテはいらない”って言ってくれて…… > わたし、ちょっとだけ、うれしかったです。』
数値は1。でも、 たったひとつの“うれしさ”が記されたページは、あたたかかった。
第三話:ゼロから1へ、最初の灯り
ときめきカルテ?? 陽菜にとって、それは最初のうちは“罰ゲームの延長線”みたいなものだった。 恋愛初心者に「毎日1ときめき書け」と迫るシステムって、どこの恋愛ブラック企業ですか…と夜に天井へつぶやくことも、数度。
けれどその日、ほんの少し“変化”があった。
?
午後。部署内資料室の棚に手を伸ばしたとき、目当てのファイルが思ったより上の段にあった。 不意に、後ろからスッと蒼真の指が伸びて、それを陽菜のすぐ上から取った。
「……っ」
距離、至近。 肩と肩が触れるほどの瞬間、陽菜の心臓が跳ねた。
「危ないので、次から脚立を使ってください」
「は、はいっ。……ありがとうございます」
目を合わせられなかった。 けれど、足元のメーターが“ピッ”と音を立てたのは確かだった。
?
帰宅後、ときめきカルテにはこう記された。
> 『ファイルを渡されたとき、先輩の指が一瞬触れました。 > すごく短い時間だったのに、胸がきゅってなって。 > これが“ときめき”なのかなって……初めて思った気がします。』
?
次の日の提出時、蒼真はカルテにざっと目を通すと、少しだけ眉を動かした。
「“ときめき”にしては、ずいぶん繊細な反応ですね」
「す、すみません…体質かもです…」
「……悪くない反応だと思います」
声が低く、静かだった分だけ。 その言葉は、陽菜の中でしっかりと響いた。
?
机の下の足元では、ふたりのメーターが静かに光っていた。 それはまだ、誰にも気づかれていない、小さな恋の予兆。
第四話:猫カフェ研修と、心の距離
?
「ちょっと待ってください。猫カフェって……業務ですか?」
陽菜はうすピンクのチケットを見ながら、眉を下げた。
「正確には、“恋愛感情刺激研修・初級編”ッス!」
PR部の三条レンは、キラキラした笑顔で親指を立てていた。 どうやら本気らしい。
「ときめき発電データを取るなら、“共感”と“やわらかい空間”が鉄則でしょ? 相手はもちろん、蒼真先輩。 恋のフラグ立ちますよ~?」
「立てたくて立てるもんじゃないですよ、それ…!」
?
午後。ふたり並んで猫カフェの暖簾をくぐる。 店内にはふわふわした空気と、ふわふわした生き物が、あちこちにいた。
「……君、猫は好き?」
不意に聞かれて、陽菜は少し笑った。
「はい。でも……向こうからはあんまり好かれないんですよね」
「俺もだ。基本、逃げられる」
やけに素直な言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
?
「……って、あっ?」
突然、真っ白なもふもふが蒼真の膝に乗った。
「この子、“もっち”って名前らしいです。 懐くときは“選んだ証”ってスタッフさんが…」
蒼真は無表情のまま、少しだけ手を伸ばしてなでた。
「……意外ですね」
「何が?」
「先輩、猫にも距離感つかむの苦手なんですね」
「……うるさい」
陽菜がふっと笑うと、メーターが“ピコッ”と音を立てた。
LCP【+2】:共感+微笑み
「陽菜、カップ倒れるよ??」
その声と同時に、陽菜の手からずれかけたカップを蒼真が支える。
一瞬、指先と指先が触れた。 反射的に陽菜の心が跳ねる。
蒼真「……熱くなかった?」
陽菜「えっ、あっ、だ、だいじょうぶです」
?
店内の間接照明が、ふわっと明るさを増す。 ふたりのメーターが、そっと反応していた。
LCP【+3】:驚き × 安心 × 好意(微)
?
帰り道、隣を歩く蒼真の足音は静かだった。
でも陽菜は知っている。 この沈黙は、居心地が悪いものじゃなくて。
彼と並んで歩くことに、今日はちょっとだけ慣れたのかもしれない。
?
> 『ときめきカルテ(4日目) > “もっち”くんと先輩が、意外と似てました。素直じゃないけど、優しかったです。』
第五話:“あーん”大失敗と壁ドン指南書
昼休みのオフィスに、爆発音が響いたような気がした。
「陽菜~っっ? ついに届いたよっっ?? “LOVE☆GUIDEマニュアル・最新版”!」
ドン、と陽菜のデスクに置かれたのは、金色の箔押しがまぶしい恋愛冊子。 監修者:澄川リリカ。 装丁の主張:想像の5倍。
「なにこれ。怖い。バインダーの重さがもう恋愛の圧です」
「恋って知識だから!はじめは“あーん”から入って、最終目標は“壁ドンで告白”だよ!」
「それ、最終的に何が燃えるんですか??」
?
でも陽菜は、思っていた。 恋愛感情って、マニュアルでどうにかなるのかなって。
けれど?? “とりあえずやってみる勇気”がなければ、始まらないのも事実だった。
?
午後の休憩スペース、蒼真が立ち上がるタイミングを狙って、 陽菜は震える手で、1粒のマシュマロを差し出した。
「あのっ、せんぱい、“あーん”って、してもらえたり……」
「……………」
5秒の沈黙。 陽菜の耳が、自分の鼓動で埋まる。
「……何をしているんですか?」
「リリカさんが??マニュアルに????」
蒼真は小さく息をつき、頭をひと振りした。
「……食後にコーヒーを淹れてきます」
敗北だった。華麗なる、完敗だった。
?
リリカ「いや~“あーん未遂”……名シーンだった」
カナタ「被験者の羞恥心メーター、限界突破スレスレ」
?
でもその日の夕方。 陽菜がときめきカルテに書いたのは、こういうことだった。
> 『すごく恥ずかしかったけど、マニュアル通りじゃなくて、 > “伝えたくて行動する自分”も、ちょっとは好きになれました』
?
好きって、たぶん完璧じゃなくていい。 失敗して、ぐしゃぐしゃになって、笑えて、悔しくて、でも??
今日の私にしか書けない一行が、このページにはある。
第6話:VR恋愛体験と、ほんものの手
「陽菜さん~~!感情実証実験、やりましょー!」
軽快な足音と共に現れたのは、開発部のカナタ。 いつもながら予測不能な空気をまとっているが、今回はいつにも増して怪しい笑みを浮かべていた。
「……えっ、まさかまた“猫カフェ・リターンズ”ですか?」
「ふふ……違います。“VR恋愛シミュレーション体験”です!」
?
噂では聞いていた。 擬似恋愛環境で感情を可視化し、発電効率を研究する??という、社内でも賛否あるプロジェクト。 そして今回、陽菜が抽選で(という名の謎選出で)選ばれてしまったらしい。
「で、相手役って……」
「はい、蒼真先輩です」
「やっぱり??」
?
ヘッドセットを装着し、映像が明転すると、そこには教室の廊下。 ブレザー姿の自分。そして、壁際の下駄箱の前に立つ??制服姿の蒼真。
「……ここで会うなんて、偶然だな」
声がリアルすぎる。距離がリアルすぎる。 でも、何より心拍音がうるさすぎる。
「……陽菜。ちゃんと、起こしに行くから。明日も、ちゃんとここで会おう?」
??完全に、ドラマのセリフじゃん????
VR内メーター:LCP反応【急上昇】 陽菜の思考:完全フリーズ
?
「ストーップ?? 限界です?? 頭から湯気出そうです~~~っ??」
ヘッドセットを外した瞬間、現実に戻った陽菜は椅子の背もたれに倒れ込む。
でも。
そのとき、テーブルに置こうとしていた水のコップを倒しかけ、思わず手を出しかけたその瞬間。
「??危ない」
現実の蒼真が、そっと陽菜の手に触れて、コップを押さえた。
「……すみません、ボーッとしてて……」
「混乱もするだろう。感覚を揺さぶられる実験だったからな」
蒼真の指先は、VR世界よりずっと静かで、あたたかくて。 陽菜は何も言えず、ただそのまま、手を引っ込めることができなかった。
?
その日の“ときめきカルテ”には、こう記した。
> 『仮想の恋より、隣にいたあの人の“本物の手”の方が > ずっと、心を動かしました。』
第7話:ときめきカルテ、すれちがいのログ
週末の夜、陽菜はカルテ記録室のデータ端末にログインしていた。
「うわ、蒼真先輩って……提出率100%なんだ……」
データベースには、淡々と、けれど欠けなく記録された先輩のカルテ。 たとえば、こういう文章。
> 『3/15 13:40 対象の笑い声。急激な音量上昇だが嫌ではなかった。むしろ快音と感じた』
> 『3/21 9:05 書類を渡された際の指の圧力。皮膚温上昇1.3℃』
……いやそれ、恋愛カルテですか????
?
「わたし……ただ“たのしかったです”とか書いてるだけかも……」
陽菜は自分のカルテページをめくりながら、少しだけため息をついた。
たしかに自分の記録は、数値も曖昧、感情も主観だらけ。 でも、でも……。
そのとき、端末が“共有送信通知”を表示した。
?
> 【from:蒼真】 > 本日提出分の内容共有 > > 『あなたのカルテが、ときどき記録よりまぶしく見えるのは、 > 多分、自分がそれを“予測できない感情”として読んでいるからです』 > > ※ときどき、笑ってください。自分にはできないので。
?
陽菜の心の中で、音もなくなにかが崩れた。 泣きそうなほど、うれしくて。
?
その夜のカルテに、彼女はこう書いた。
> 『先輩のこと、まだ全然わからないけど、 > でも、たった今、わたしの中で“ちゃんと好き”が芽生えました。』
数値はないけれど、 カルテのすみにある小さなハートマークが、ぽっと光ったような気がした。
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