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流れに乗って小説を書いてみた/89



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自分のスレッドを作る 13: Heinz Rolleke 
[2025-02-15 23:25:53] [×]
**終末の二人**

世界が終わった。どうして終わったのかは知らない。知らないが、とにかく終わったのである。テレビもラジオも沈黙し、スマホは電波を失い、人々はどこかへ消え去った。かくして、広大な廃墟と化した世界に、なぜか僕と佐々木だけが取り残された。

「いやはや、これは実に由々しき事態だね」
「何が由々しきだよ。どう見ても最悪の状況だろ」

佐々木は腕を組んで言う。彼は終末の割に妙に落ち着いており、むしろ「これからどうする?」などとやけに前向きである。かく言う僕はと言えば、文明という外付けの脳を失ったせいで、もはや思考の半分が機能していない。スマホの充電が切れた瞬間、僕の知性の大部分は霧散したのだ。

「しかし我々が生きている以上、これはもう仕方がないのではないかね」
「なんだその諦観は」
「ほら、京都の老舗旅館に泊まったら、チェックアウトの時間が来るまで存分に堪能するだろう。我々も今、そういうフェーズではないかね?」

つまりは終末を楽しめと? 佐々木は常軌を逸している。そもそも、この世の終わりを旅館のチェックアウトに喩えるのは無理がある。ならば何に喩えればよいのか、と思案したが、脳が文明を失っているので適切な比喩が浮かばなかった。

仕方がないので、僕たちは京都の老舗旅館のチェックアウトをするかのごとく、世界終焉の余韻を味わうことにした。廃墟と化した街を散策し、空っぽのスーパーで適当に食料をあさり、かつて賑わっていたであろう商店街のアーケードをぶらぶらと歩いた。

「人がいないって、なかなか快適じゃないか?」
「なに言ってんだ。大問題だろ」

佐々木は実に楽しげだ。こういう状況でも楽しめる人間がいるのだから、人類というものはつくづく適応力が高い。しかしながら、僕にはとてもそんな余裕はない。誰もいない世界というのは、やけに静かで、どこまでも広く、そして恐ろしく孤独だ。

そんな中、僕たちはとうとう気づいてしまった。

「これ、もしかしてさ」
「うん?」
「我々が最後の二人なのでは?」

佐々木が驚くほどのことではないが、口にすると妙に実感が湧いた。僕と佐々木しかいない世界。それはすなわち、この地球という壮大な舞台において、登場人物が僕たち二人だけであるということを意味している。

「なるほど。じゃあさ、僕たちが死んだら、本当にこの世界は終わるってことか」
「まあ、そうなるな」

世界の終焉を担うのが、僕と佐々木の寿命だとは、なんとも心もとない話である。僕らが転んで頭を打てば、世界は終わる。食中毒で倒れたら、それで終わる。喧嘩して相手を突き飛ばしたら、片方が死んで世界人口が一人になり、もはや世界と呼べるのかすら怪しくなる。

「これは、逆に責任重大だな」
「そうとも言える」

僕たちはしばし黙った。そもそも、ここまで生き残ってしまったのは偶然なのか、それとも何らかの意図があったのか。いや、世界が終わることに意図などあるのか。考え出すと、脳の容量が限界を迎えそうだった。

「まあ、いずれ死ぬけどな」
「そりゃそうだ」

人類最後の二人による、あまりに雑な結論だった。だが、それ以上に考えることもない。最後の人類は、たぶんこうして終わるのだ。長い歴史の果てに、しがない二人の男が適当にぶらぶら歩き、適当に空を見上げ、適当に「終わるな」と思いながら、適当に死ぬ。

そうして、世界は完全に終わった。

だが、それもまた悪くないではないか。


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