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雑談掲示板
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■:
Ghost Finder ThomasCarnacki
[2023-01-08 17:08:04]
[×]
背後のシャッターが密やかに下りていく。
目を開けば、そこは無人の地下鉄駅。
構内は微かな耳鳴りが聞こえるほど静かだ。
「作戦開始五分前。各分隊長は状況知らせ」
きつねは左耳のインカムに指を添えて言った。
『アルファ配置完了。問題なし』
『ブラボー配置完了。問題なし』
『チャーリー配置完了。ですがすみません、チャーリー・フォーのコンディションが……』
「戻らない?」
『はい……』
「無理させなくていい、離脱させて。欠員はフォックストロット・ツーが埋める」
──きつねはなぜだか全く緊張していなかった。
作戦立案の後、二週間に渡って行われた、任務中に発生しうるあらゆる状況を想定したシミュレーション訓練のおかげではない。
NIJ規格にしてタイプⅣ相当──.30-06スプリングフィールド7.62x63mmの徹甲弾さえ食い止める炭化ホウ素製防弾プレートと衝撃吸収用のトラウマパッドを入れたプレートキャリアに安心感を覚えているわけでもない。
ましてや肩に担いだ、フルサイズ弾による高貫通力と優秀な基礎設計からなる確かな信頼性を備えたPKM汎用機関銃がテロリストに風穴を開けることを期待しているからでもない。
何一つ、理由が分からなかった。
「デルタ分隊はどうか」
『デルタ配置完了。問題ありません』
「よろしい。エコー分隊、緊急離脱ルートの確保は?」
『ブリーチ完了。一番、二番、四番開通。されど三番経路内に民間人あり』
「了解。エコー分隊は当該ポイントを防衛せよ。三番は民間人退去が終了し次第、速やかに発破すること」
『了解』
不思議な心地だ。これから命のやり取りをするとはとても思えない。これは油断なんだろうか。
「小隊長より各員へ。作戦は定刻通りに開始する」
妙な胸騒ぎを覚える。肌がぴりつくような、そんな感覚が漠然とある。
それでも、心は不自然に凪いでいた。
本当に、上手くいくのか?
1:
Ghost Finder ThomasCarnacki
[2023-01-08 17:12:05]
[×]
きつねのPKMは銃取引現場から回収した一丁だった。
オーバーホールついでにバイポッドを外して軽量化を図るとともに、木製銃床の肉抜き部分をノコギリで切り落とし、床尾を銃床の付け根に極力近づける形でビス止めしている。
強引なDIYで近接戦闘用に仕立てた歪な代物だが、これがなかなか悪くない。肩からグリップまでの距離が近づいた分右手は少々苦しいが、全長がぐっと短くなった上、重心位置が改善されたおかげでそれ以上に取り回しがいい。
テロリストの目的は地下鉄を通過する列車を狙った銃乱射による大量殺戮。それを知った上層部はテロリストを一網打尽にする作戦を立案、その為の現場指揮官兼実働部隊隊長としてきつねが指名された。
きつねに与えられたフォネティックコードはフォックストロット・ツーだ。
入念な準備を整えこの場に居る
なのになぜだ?
嫌な予感は、地下三階のホームへ続く階段を下りるほどに強まっていく。
本部の予測通り、ここまで敵は誰一人いなかった。全てうまく行っているはず。
ああ、そうか。
計画が計画通りに進んでいるのが、怪しいんだ。
『こちら第三後方支援中隊。特務車両の運行に遅延なし。只今より突入カウントを開始します……ご武運を』
「実働小隊了解。ありがとう」
『一〇、九、八、七』
まあ、いいさ。
『六、五、四、三』
きつねは階段の中腹で足を止める。
『二、一』
銃床を肩に付けた。
『〇』
2:
Ghost Finder ThomasCarnacki
[2023-01-08 17:14:51]
[×]
瞬間、夥しい数の銃声が轟いた。数秒程度ではまるで止む気配がない。非武装の市民を虐殺するのに反撃を考慮する必要はないから、きっとマガジンを空にするまで続くだろう。
それが自分の首を絞めることになるとも知らずにな。
大音響に紛れて、再び階段を下りていく。耳を使って相手の人数と装弾数を把握しておくのも忘れない。
音量が音量だから聞き分けが難しいが、おそらく一〇名前後。東側系の大口径アサルトライフルに加えて、フルサイズ弾薬を使うマシンガンもあるようだ。この音、PKMじゃないか? 試射した時に聞いたものと酷似している。
『突入および発砲タイミングは小隊長の判断に委ねます。こちらからチャンネルを変更しますか?』
「指示後は戻していい。相当うるさくなる」
『了解』
列車の悲鳴にも似たブレーキノイズに、次々吐き出される薬莢に、砕ける強化ガラスに、AK系列特有のトップカバーのガタつき。予想通りマガジンチェンジはなし。聞き分けた音の要素をもとに下の様子を推察し、然るべきタイミングに合わせて歩調を修正。
デジタルイヤーマフの防音性能は大したものだが、集音装置の精度ばかりは生身のそれに一歩劣る。片耳にかけるだけのインカムでなければこうはいかない。
ほとんどの敵の残弾数が二桁を割った。
まだだ。弾切れまで待つ。
発砲が止んだその瞬間──
「撃て」
3:
Ghost Finder ThomasCarnacki
[2023-01-08 17:18:28]
[×]
──きつねの号令を受けた三個分隊一二名が、装甲された列車内から一斉にアサルトカービンを掃射した。
MCXラトラーの.300BLK7.62×35mm弾はもとより近距離での殺傷力を重視した弾薬だ。それが一二の銃口からそれぞれ秒間一五発、合計して秒間一八〇発ものペースで放たれるのだからたまったものではない。
「フォックストロット・ワン、突入する」
『了解。第一梯団、撤退開始』
列車の停車時間は、たった三秒。
たった三秒の一斉射撃で、ホームは地獄と化した。
瞬く間に全身を穿たれた男達の断末魔は、何重にも重なる絶え間ない銃声と超音速弾が発する衝撃波ソニックブームにかき消され、ついぞきつねの耳に届くことはなかった。
だがそれだけの大火力をもってしても、奇跡的にホーム中央の柱に身を隠せた数名の生き残りがAKMSを手に反撃の機会を窺っているのが見えた。
──想定内だ。そのために、俺がここにいる。
動き出す車両の中から、交互にリロードを挟んで絶え間ない制圧射撃を浴びせるアルファ、ブラボー、チャーリー分隊。彼らと入れ替わるように、最後の数段を駆け下りながら発砲。
眼前で無防備な姿を晒していた作業服の男──ブリーフィングで見た顔だ、名前は日清だったか──は、一秒と保たなかった。
7.62×54mmR弾のストッピングパワーは凄まじく、一発一発が彼の骨を砕き、肉を爆ぜさせ、それでも足らぬとばかりに奥の柱に隠れていたもう一人を貫いた。十字砲火の完成だ。列車から身を隠そうとすればきつねに撃たれ、さりとてきつねから逃げるのに柱の陰から出れば列車の分隊に撃たれる。
こうなってはもう、何をしたって死ぬ。
「悪いな」
口ではそう呟きながらも、一度引いたトリガーを戻すことはしなかった。際限なく跳ね上がっていこうとする銃口を力づくで抑え込み、視界に入った人型へ手当たり次第に弾をばらまく。
一番手前の柱で二人を解体した。
そのまま横一直線に薙ぎ払い、ホームドアを乗り越えて逃げようとしたもう一人を両断。男は腹から臓物をぶちまけながら、まるで人じゃなく物みたいに線路へ落ちていく。鉄筋コンクリート製の円柱とトンネル内壁には、拳大のクレーターがいくつも空いた。
4:
きつね
[2023-01-08 17:27:06]
[×]
こういうのってだいたいチャーリーがいるきがする
5:
ぽにぃた
ID:7b304c7de
[2023-01-08 17:37:42]
[×]
まとも(?)で草
6:
Ghost Finder ThomasCarnacki
[2023-01-08 19:06:51]
[×]
『残り一、左方から回り込んできます』
「ああ、それなら」
列車が駅を出て行き、動きを縛るものがなくなったテロリストは、どうやら逃走より報復を選んだらしい。それとも、生き延びることを諦めただけか。
きつねにはどちらでもよかった。
冷静さを失って無謀に突撃してくる敵ほど、
「今射殺した」
対処しやすいものはない。相手が飛び出してくるであろう方向に銃を向けて撃ちっ放しにしておくだけで、自分から弾幕に頭から突っ込んで即死だ。
『残敵、確認できません』
「いや、マシンガンが一丁捨てられてる。多分監視カメラの死角だ」
一発の被弾もないことを喜ぶ間もなく、きつねは銃床に頬を付けたままホームのクリアリングを急いだ。
空気が張り詰めている。この状況がそう感じさせる。
「上り線に予備の車両を通過させろ。生き残りがいれば轢き殺せ」
『了解』
辺り一帯が不気味な沈黙に覆われる中、空冷され収縮した銃身が、キン、キン、と気紛れに鳴る。視界外の偵察に使うには音量が足りない。こちらの位置を悟られるのは癪だが、クリック音を出すか。上顎、いわゆる硬口蓋に強く押し付けた舌を、勢い良く離す。耳を澄ませば、壁や天井に反響した音が返ってきて──いた。下り線ホーム直下、線路脇の退避スペース。
ここのような鉄とコンクリートで作られた閉鎖空間じゃ、靴音すら遠くまで届く。そんな場所で跳ね返ってこない音があるとすれば、人の着衣に吸われているとしか考えられない。
7:
Ghost Finder ThomasCarnacki
[2023-01-08 19:45:47]
[×]
走り出した勢いをそのままに跳躍。ホームドアに足をかけて、さらに跳ぶ。
前宙。
天地がひっくり返る。
PKMを構えた。
上下逆さの視界に映るは最優先ターゲットに指定されていた男。ハゲコピーノだ。
引き金を引くより早く、そいつは横っ飛びに転がって射線から退いた。
四分の一周回って、黒ずんだ天井と架線。
もう四分の一で、下北沢駅、と書かれた駅名標が目の前に。迫ってきた壁を蹴り付け、身を捻り、再び空中へ。アイアンサイトを覗く暇はない。地に足つくまでインスティンクト射撃で撃ち下ろす。
馬鹿げた破壊力を秘めた銃弾が、コンクリートの道床を爆ぜさせる。不規則に波打ちながらハゲコピーノへ急速に近づいていくそれは、姿なき怪物が残す足跡のよう。
その怪物が逃げる男の足首にいよいよ食らいつくというところで、不意に肩を突き飛ばされて、足跡の軌道が斜めに逸れた。ハゲコピーノが懐から抜いた拳銃によるものだ。プレートキャリアに増設されたショルダーアーマーに赤銅色の弾頭がめり込んでいる。
着地。
唐突に、背後から光が射した。
そして耳をつんざく擦過音も。
急ブレーキ? 今はまずい!
「駄目だ、止めるな!」
『危険です!』
「いいから加速!」
制圧射撃で釘付けにする暇もなく、奴は呆れるほどに素早い身のこなしでホームドアをよじ登って上に消えた。よっぽど壁ごと撃ち抜いてやろうかと思ったが、車両はもう背後に迫っている。
仕方なしに跳躍し、筋繊維の断裂を代償に約二mの高さを一足飛びに越えた。直後、背後に強烈な風が吹く。中途半端な速度でなければ、これで仕留められたんだが。きつねは歯噛みした。
8:
Ghost Finder ThomasCarnacki
[2023-01-08 20:23:27]
[×]
奴の姿は見えない。線路沿いの黄色い誘導ブロックに、何やら白っぽい破片──割れた強化ガラスが散らばっている。
「野郎、乗り込みやがった!」
『停車させます』
「いや、もっと加速させて降りられないようにした方がいい!」
『それではあなたが!』
「支障はない!」
右隣を抜けていく車両の、きつねからなるべく遠い位置の窓に一発だけ撃ち込んだ。
弾痕を中心に広がる蜘蛛の巣状の罅ひびを見て。
全身に力を溜めて。
割れた窓がぐんぐん近づいてきて。
今だ。
感覚を信じて、列車の横っ腹に飛び込んだ。
さしたる抵抗もなく粉々になる窓。
着地後、首を左右に振って索敵。
前方車両の奥に例の男。
一歩踏み出した瞬間、急制動を続けていた列車はついに止まった。
そう、止まってしまった。
きつねのペースにバックアップが付いてきていない。明らかに飛ばしすぎだ。だがこうでもしなければ、きっと取り逃すだろうという予感があった。
ハゲコピーノの手の中に、ピストルグリップのような黒い物体。目を凝らすと、銀色の細長いアンテナが生えているのが見える。
HQの戦力分析に爆発物の類はなかった。向こうが一枚上手ってことだ。
ハゲコピーノが振り返って、きつねを見た。意地悪く片頬を持ち上げて、そして。
起爆装置のスイッチを押した。
9:
ハゲコビーノ
[2023-01-08 21:49:27]
[×]
おおおお!!
10:
Ghost Finder ThomasCarnacki
[2023-01-08 22:05:44]
[×]
目覚めて最初に見えたのは、灰色の砂とガラスの粒にまみれた自分の右腕だった。
左耳のインカムからは何も聞こえてこない。駅の構内に仕込んでいた中継機が死んだのかもしれない。後方支援中隊の隊長殿は、パニックを起こさずに副系統に繋ぎ直してくれるだろうか。
空気と一緒に粉塵を吸い込んで、何度か咳き込んだ。
「んの野郎……」
唇が粉っぽい。舌でなぞると鉄臭い。飛んできた礫つぶてか何かで頬を切ったみたいだ。口の中に入り込んだ砂粒を唾と一緒くたに吐き捨てる。肘をついて立ち上がろうとしたら、左腕を強く引っ張られた。
目を向けると、そこにあったのはひしゃげた巨大な金属の板だった。
トンネルの天井に爆薬を仕掛けていたんだろう。降ってきたコンクリートの塊が客車の屋根を幾筋にも引き裂いて、その結果生じた刃物のように鋭い破断面と鈍器の混合物が、きつねの左腕を叩き潰し、床に縫い止めていた。
「ぐ、う……うっ……!」
歯を食いしばり、意志に関係なく漏れそうになる呻き声を押し殺し瓦礫の中からひしゃげた左腕を引き抜く。
『すみませんフォックストロット・ツー、主回線が──』
「車両を出せ、逃げられる……!」
復旧したインカムに叫びながら走り出そうとした瞬間、バランスを崩して転倒した、使い物にならなくなった左腕に対して、PKMは重すぎた。惜しいが、置いていこう。代わりに、うつ伏せに倒れたまま背中のサッチェルバッグからグロック17を抜く。車両と車両の継ぎ目の、客室から一段狭くなった幌に右肩を押し付けるようにしてなんとか立ち上がると、ちょうど足元から連結器の作動音が聞こえてくる。
潰れた車両は放棄して、生きている前方の三両だけを走らせるってことか。
それでいい。速度が乗れば、飛び降りて逃げることはできなくなる。密室の完成だ。
11:
ハゲコビーノ
[2023-01-08 22:07:14]
[×]
めっちゃおもろい
12:
Ghost Finder ThomasCarnacki
[2023-01-08 22:12:49]
[×]
きつねが、前に一歩踏み出せば、列車はそこかしこを軋ませながら辛うじて動き出し──頭と胸に、間髪入れず銃弾が叩き込まれた。防弾ヘルメット越しに脳を揺らされる。仰け反りながらも撃ち返すが、どうせ当たらないだろう。
座席はすべてベンチシートで、身を隠す場所は少ない。この射撃精度からして相手は間違いなく凄腕だ。このまま撃ち合っても、先手を取られている状態で相手を仕留めるのは厳しいものがある。
だから追撃を避けるため、下手に抵抗せずそのまま仰向けに倒れた。弾は防弾素材に止められているが、不自然には見えないように。
死亡確認のために近づいてきたところを一気に仕留める。プロほど引っかかりやすい、きつねの定石のひとつだ。
正気を失ったように暴走する列車の激しい揺れと、悲鳴のような走行音に紛れて、足音が近づいてくる。
目を閉じて、さらに聞き入った。
反響定位エコーロケーションで位置を割り出す。
きつねがいる三両目に入ってきた。
撃鉄が引き起こされる音がする。
「おいおい」
リボルバー? いや、そもそもなんで、
「死に損なっちまったみてぇだな?」
なんで見抜かれたッ?
13:
ハゲコビーノ
[2023-01-08 22:14:52]
[×]
きつねぇ!
14:
きつね
[2023-01-08 22:15:39]
[×]
んだ
15:
Ghost Finder ThomasCarnacki
[2023-01-08 22:29:03]
[×]
「緊急停車!」
目を開けて叫ぶ。
直後、足方向にかかる強烈な減速G。
上体を起こす。慣性が動きを助けてくれる。
飛び起きる。走る。
眼前の男が発砲。
ライノ・200DSに右脚を撃ち抜かれた。
構わずきつねは跳躍。
空中で両足を突き出し、ドロップ・キック。
金属カップ入りのブーツがハゲコビーノの胸にめり込んだ。胸骨と肋骨のいくつかをまとめてへし折り、砕く、確かな感触。
奴は扉を突き破り、吹き飛ぶ。
インパクトの反動を利用して後方宙返り、着地。
グロックをエクステンデッド・ポジションに構え、制圧射撃を加えながら離れた間合いを詰める。重心の狂いがひどく、思うように走れない。ともすればまた右腕から転びそうだ。
きつねが二両目に突入すると、倒れていたハゲコは跳ねるように立ち上がった。軽やかな動きだ。折れた骨が内臓に突き刺さっても構わないってのか、イカれ野郎め。
そして応射も驚くほど早く、正確だった。
顎を引いていなければ、ヘルメットではなく額に当たっていただろう。さすがにきつねも、脳みそをぶちまけてしまったら即死。
死の予感がする。
長らく、あるいは一度も感じたことのなかった、死。
寒いような、熱いような、不可思議な感覚が背中に這い上るのを感じる。
俺は怯えているのか?
それとも、嬉しいのか?
16:
ハゲコビーノ
[2023-01-08 22:31:18]
[×]
クライマックスか?!
17:
ハゲコビーノ
[2023-01-08 22:32:02]
[×]
ハゲコそろそろなんか喋れや
18:
Ghost Finder ThomasCarnacki
[2023-01-08 22:40:37]
[×]
べたべたと脳裏にまとわりついてくる不快な思考を振り払うように、きつねは何度もトリガーを引いた。ハゲコは三角跳びの要領で壁を蹴り、宙を舞い、ロングコートを翻す。地に足つけた相手を狙った射撃など当たるはずがなかった。
当然、射線を読んでいるわけではないんだろうが、このセオリーを鼻で笑うような常軌を逸した挙動は人間離れしている。
空中の敵の爪先が、いつの間にか至近に。
とっさに右腕を持ち上げて防ぐ。
軽い。力がさして籠もっていない。フェイントだ。
本命は、そうか。リボルバー。
手遅れと知っていても、顔をめいいっぱい逸らした。むき出しの側頭部──ヘルメットはイヤーマフとの併用を想定して耳周辺の装甲が排除されている──が焼けるように熱い。視界が強烈に揺れて、光が散る。
きつねは、一瞬遅れて、自分が死んでいないことに気付いた。
頭蓋骨が銃弾を弾いたらしい。入射角が浅かったのか。理解と同時にグロックを前に突き出す。撃つと見せかけて、そのまま銃口で顎を殴りつけてやった。こうでもして隙を作らないと今みたいにカウンターが飛んでくる。
構図は直前の焼き直しだ。今度はきつねが胸元に銃を寄せたハイ・ポジションでハゲコの頭を狙う。
19:
Ghost Finder ThomasCarnacki
[2023-01-08 22:46:25]
[×]
が、それよりハゲコが態勢を立て直す方が早く、射撃は髪を数本散らすだけに終わった。ジャブとはいえクリーンヒットしたってのに、どれだけタフなんだ。
ライノの銃口がこちらを向く。撃たれる直前に辛うじて右手で弾くと、
「ハッハァッ!」
男は嘲笑した。理由はすぐにわかった。
がら空きになった左腕を拳が抉った。剥き出しの肉が潰れる。体が右に傾ぐ。強化ガラスの細片が残る窓枠へとっさに肘をついて耐える。
間髪入れず短い横髪を掴まれた。弾丸に切り裂かれたばかりの頭皮にハゲコの長い指がめり込む。
顔を叩きつける気か。舐められたもんだ。
思ったのはそれだけだ。
痛みなんかねじ伏せろ。
「調子……」
ぶちぶちと抜ける髪を無視して強引に立ち上がり、戦闘の高揚に歪んだ目を睨みつける。
ハゲコの表情から余裕が消えた。今度は驚愕と恐怖が半々。
「乗んなぁっ!」
きつねとほとんど同じ高さにある顔面にヘッドバットを叩き込んだ。鼻骨がへし折れる。さすがに効いたのか、苦悶の声が聞こえた。
それでも手は離れない。左腕があれば簡単に引き剥がせるのに。パワーで上回っていても活かせないのがもどかしい。
20:
きつね
[2023-01-08 22:48:12]
[×]
ハゲコって髪あったんだ
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